臼井孝・月刊moraチャート分析(2017年1月)

このコーナーでは、moraでのヒット作を、直近の4週分の月間ダウンロード数から見てまいります。これにより瞬発的ではなく長期的なヒットがいっそう明確になると思います!今回も、ハイレゾ・チャートを見てみます。通常音源では、「紅白歌合戦」を中心とした年末年始の音楽番組効果が大きかったようですが、ハイレゾではどうでしょうか。

まずはハイレゾ・シングル・チャートを見てみます。

 

■ハイレゾ・単曲チャート 集計期間:2016年12月26日~2017年1月22日

月間 今週 タイトル アーティスト名 発売元
1 2 1 1 1 前前前世 (movie ver.) RADWIMPS U
2 3 5 4 6 なんでもないや (movie ver.) RADWIMPS U
3 5 2 2 4 花束を君に 宇多田ヒカル U
4 11 7 3 2 Don’t be Afraid L’Arc~en~Ciel S
5 12 8 5 7 前前前世 (original ver.) RADWIMPS U
6 61 9 6 3 e of s SawanoHiroyuki[nZk]:mizuki S
7 4 4 7 9 残酷な天使のテーゼ
(Director’s Edit. Version)
高橋洋子 K
8 1 EXCITE 三浦大知 A
9 43 12 8 5 ninelie <cry-v> SawanoHiroyuki[nZk]:Aimer S
10 9 11 9 14 スパークル (movie ver.) RADWIMPS U
11 6 3 16 39 STAY TUNE Suchmos SS
12 15 18 15 8 なんでもないや(movie ver.) 上白石萌音 PC
13 18 10 12 15 God knows... 涼宮ハルヒ(CV.平野 綾) LA
14 19 21 10 10 Hey Now MAN WITH A MISSION S
15 8 16 11 18 宇多田ヒカル U
16 10 13 13 16 夢灯籠 RADWIMPS U
17 20 20 19 11 RAGE OF DUST SPYAIR S
18 22 14 14 13 History Maker DEAN FUJIOKA AS
19 21 17 17 17 スパークル (original ver.) RADWIMPS U
20 13 6 We are ONE OK ROCK AS

※2016年12月26日~2017年1月22日の4週間を「月間」とした。「今週」を含め4週分の週間推移は小さく併記した。「-」はTOP50圏外。網掛けは、8週以上チャートインしているロングヒット。

メーカー一覧:メーカー一覧:AS=A-Sketch、K=キング、LA=ランティス、PC=ポニーキャニオン、S=ソニー、SS=スペースシャワーネットワーク、U=ユニバーサル

 

シングル1位は、昨年8月に配信開始となったRADWIMPSの「前前前世 (movie ver.)」。一時は、週間10位まで下がりましたが、年末の各種年間ヒット特集での紹介やNHK『紅白歌合戦』での出演が大きな引き金となって再浮上、月間でも前月の3位から1位に返り咲きました。もっとも、『紅白』で歌われたのは、アルバム『人間開花』収録の「前前前世 (original ver.)」の方で、こちらも月間6位から5位と浮上していますが、映画などでより親しみのある (movie ver.) を購入したリスナーが多かったようです。

なお、月間2位には同じく映画『君の名は。』主題歌だったRADWIMPS「なんでもないや (movie ver.)」も再浮上。興味深いのは、4曲の主題歌のうち、本作だけが最新週で3位とゆっくり浮上している点です。これは、単なる年末メディア効果ではなく、年が明けてからテレビ番組『関ジャム完全燃SHOW』にて、音楽プロデューサーの蔦谷好位置が本作について「参りました!」と絶賛したことから上昇し続けた影響が出ています。他にも、同番組で、「ソカやカリプソのリズムを取り入れているのが斬新」とtofubeatsが絶賛した宇多田ヒカルの「道」も最新週で8位、月間でも15位と再浮上しています。

 

chart-7-1

宇多田ヒカル「道」収録アルバム『Fantome』(ユニバーサル)

試聴・購入はこちら

 

TOP20中15曲までがロングヒット(黄色い網掛け)となっていますが、これは年末年始でまとまった時間が出来たことで長時間TVを観た結果、「気に入って買ったのかな」と思える再浮上曲が続々ランクインしているからです。通常音源では、星野源の「恋」や欅坂46の「サイレントマジョリティー」の“紅白効果”が目立ちましたが、ハイレゾでは、これらの作品がない代わりに様々な別の効果が顕著に見られました。

まず、3位に宇多田ヒカルの「花束を君に」が前月のTOP30以下から急上昇。これは『紅白』や『日本レコード大賞』の出演、更には主題歌となったNHK連続テレビ小説『とと姉ちゃん』の総集編の放送が大きいと思われます。そして、7位にはNHK-BSにて放送の始まった『新世紀エヴァンゲリオン』のオープング曲「残酷な天使のテーゼ」が前月の18位より今月7位と大きく浮上しています。年末のまとめ視聴効果も大きかったのではないでしょうか。

また、Honda「VEZEL」のCM曲に使われているロックバンドSuchmosの「STAY TUNE」も月間11位に急上昇。昨年の1月27日に配信開始され、オシャレなロックファンを中心に支持されてきましたが、昨年9月よりCMに起用されたのを機に朝の情報番組等でも特集され再浮上、さらにこの年明けのCMで初めて知った人が多いのか、特にミドル世代も多いハイレゾでは顕著に伸びました。

さらに驚くのが、月間13位にアニメ『涼宮ハルヒの憂鬱』内の人気挿入歌で主演の涼宮ハルヒ(CV:平野綾)が歌った「God knows…」も急上昇。本作は、2006年6月発売のCDシングル「涼宮ハルヒの詰合」に収録されていたポップロック・チューンですが、その約10年4ヵ月後となる10月19日にハイレゾ配信が開始され、当時の人気もあってTOP50前後にチャートインしていました。さらに、この年末にインターネットTV「AbemaTV」にて一挙放送があった週からTOP20内に急上昇。CDの方も、3年がかりでロングヒットしただけに、本作も高橋洋子「残酷な天使のテーゼ」のように、ハイレゾロングヒット作に加わりそうです。

 

chart-7-2

涼宮ハルヒ(CV.平野 綾)「God knows...」(ランティス)

試聴・購入はこちら

 

こんな風に、ハイレゾ効果では“紅白効果”以外でも面白いヒット現象が数多く見られましたが、アルバムの方はどうでしょうか。

 

 

次に、ハイレゾ・アルバムチャートを見てみます。

 

■ハイレゾ・アルバム ランキング 集計期間:2016年12月26日~2017年1月22日

月間 今週 タイトル アーティスト名 発売元
1 1 1 Ambitions ONE OK ROCK AS
2 3 4 1 5 ベスト・サウンドトラック・ハイレゾ・セレクション・プレミアム
~オールタイム・ベスト~
Hollywood Movie Works RA
3 2 5 4 4 Fantome 宇多田ヒカル U
4 8 7 2 1 ベスト・サウンドトラック・ハイレゾ・セレクション・プレミアム
~オールタイム・ベスト~シーズン2
Hollywood Movie Works RA
5 9 2 TVアニメ『響け!ユーフォニアム2』オリジナルサウンドトラック「おんがくエンドレス」 松田彬人 LA
6 57 18 11 3 e of s EP SawanoHiroyuki[nZk] S
7 4 10 10 12 Utada Hikaru Single Collection Vol.1 宇多田ヒカル U
8 12 12 7 10 君の名は。 RADWIMPS U
9 41 5 6 globe – early years remaster – globe A
10 45 85 19 2 シングルズ 1969-1981 Carpenters U
11 38 8 3 Joyful Monster Little Glee Monster S
12 14 13 6 20 超いきものばかり~てんねん記念メンバーズBESTセレクション~ いきものがかり S
13 13 6 13 52 LOVE&VICE (PCM 96kHz/24bit) Suchmos SS
14 30 35 9 8 ハイレゾクラシック the First Selection Various Artists NJ
15 27 20 14 9 FINAL FANTASY XV Original Soundtrack SQUARE ENIX SQ
16 48 21 17 7 ゆったり聴きたいカフェBGM プレミアムジャズベスト Cafe lounge Jazz S2
17 16 11 8 Number Ones Michael Jackson S
18 19 3 Drive-in Theater 内田真礼 PC
19 22 16 15 15 人間開花 RADWIMPS U
20 7 9 The Essential Billy Joel Billy Joel S

※2016年12月26日~2017年1月22日の4週間を「月間」とした。「今週」を含め4週分の週間推移は小さく併記した。「-」はTOP50圏外。網掛けは、8週以上チャートインしているロングヒット。

メーカー一覧:A=エイベックス、AS=A-Sketch、LA=ランティス、NJ=ナクソスジャパン、PC=ポニーキャニオン、RA=Rambling RECORDS、S=ソニー、S2=S2S、SS=スペースシャワーネットワーク、SQ=SQUARE ENIX、U=ユニバーサル

 

1位は、ONE OK ROCKの通算8作目となるアルバム『Ambitions』がダントツに。本作収録の先行配信シングル「Always Coming back」「Taking Off」「Bedroom Warfare」「I was King」はいずれもハイレゾで好調だったので、本作の大ヒットも納得。特に、発売前の1月9日に、NHKのゴールデン帯にて『ONE OK ROCK 18祭 ~1000人の奇跡 We are~』珍しく、地上波にONE OK ROCKが出演したことで、主役だった若い世代のファンのみならず、休日(成人の日)でテレビを観ていた更に上の世代にも共感するファンが多かったのではないでしょうか。ちなみに、本作には、アヴリル・ラヴィーンと共演した「Listen」も収録されていますが、歌唱面でも演奏面でも、洋楽のハードロックと同化しています。

 

chart-7-3

ONE OK ROCK『Ambitions』(A-Sketch)

試聴・購入はこちら

 

2位と4位には、昨年3月に発売され、ヒット映画のテーマ曲がハイレゾ音源ながら15曲1350円で買えるのが好評で年間ハイレゾ・アルバム2位となった『ベスト・サウンドトラック・ハイレゾ・セレクション・プレミアム ~オールタイム・ベスト~』と、その続編として昨年12月末に発売された第2弾がランクイン。他にも、(高音質×お値打ち価格)作品として、14位に『ハイレゾクラシック the First Selection』が、16位に『ゆったり聴きたいカフェBGM プレミアムジャズベスト』がそれぞれ年末年始の急上昇で月間でもTOP20入りしており、まさに良質な音楽を“ゆったり聴きたい”人が長期休暇に多いことが読み取れます。なお、『ハイレゾクラシック the First Selection』は、よりやわらかい、よりあたたかい音を目指した (eilex HD Remaster ver.)も、最新週で6位に初登場しており、2014年9月配信の初版から継続したヒットとなりそうです。

 

chart-7-4

Hollywood Movie Works『ベスト・サウンドトラック・ハイレゾ・セレクション・プレミアム ~オールタイム・ベスト~シーズン2』(Rambling RECORDS)

試聴・購入はこちら

 

他にも、この年末年始を狙ったのか、globeやマイケル・ジャクソン、ビリー・ジョエルといった邦楽や洋楽のレジェンドの作品集が次々とハイレゾで配信され、globeが9位、マイケル・ジャクソンの『Number Ones』が17位、ビリー・ジョエルの『The Essential Billy Joel』が20位とそれぞれ月間TOP20入りしています。マイケルは、『The Essential Michael Jackson』も月間22位に入っており、『Number Ones』と合算すると、月間6位レベルのヒットとなっています。

特に、globeは大健闘でしょう。本作は、デビュー20周年を記念して『globe』『FACES PLACES』『Love again』『Relation』といった初期4枚のアルバム全50曲を、ハイレゾ用にリマスタリングされた作品です。いずれもCDでミリオンヒットとなった作品ゆえに中古ショップでは4枚まとめても1500円以下で買えたり、また通常音源でも幾つかのベスト盤がプライスオフ期間ならば30曲1500円ほどで買えたりする中で、4枚分で9602円(現在は1万2000円)を払って初期アルバムの全曲を余すことなくハイレゾ音源でじっくり楽しむというファンも確実にいるのです。これこそ大人の最高の贅沢ではないでしょうか。SNS上でも「globeのハイレゾ欲しい」との呟きが多数見つかるので、アルバム1枚分を個別に購入するファンも後続しそうな勢いです。確かに、小室哲哉氏の発言を見聞きしていると、新発見を求めてハイレゾで聴きたくなりますよね。

 

chart-7-5

globe 『globe – early years remaster -』(エイベックス)

試聴・購入はこちら

 

以上のように、年末年始ゆえ、テレビやインターネットの長時間視聴により楽曲を購入したり、ハイレゾ入門的な作品やビッグ・アーティストの作品をまとめて聴いたりという現象が数多く見られました。通常音源よりも、ヒット現象が多いのは「年末年始くらいは贅沢しようじゃないか」と財布の紐も緩むのでしょうか(微笑)。今年は、正月に限らずとも、良質な音楽作品には気前よく“自己投資”するリスナーが増えるといいなと思います♪

 


 

【筆者プロフィール】

臼井 孝(うすい・たかし)

1968年京都府出身。地元国立大学理学部修了→化学会社勤務という理系人生を経て、97年に何を思ったか(笑)音楽系広告代理店に転職。以降、様々な音楽作品のマーケティングに携わり、05年にT2U音楽研究所を設立。現在は、本業で音楽分析やau Music Storeの監修、さらにCD企画(『エンカのチカラ』シリーズや松崎しげる『愛のメモリー』メガ盛りシングルなど)をする傍ら、共同通信、日経トレンディネット、月刊タレントパワーランキングでも愛と情熱に満ちた記事を執筆中。2016年の宇多田ヒカル、RADWIMPS、そして年明けすぐのONE OK ROCKのメガヒットに触発され、今後、ハイレゾ配信を始めるアーティストが増えるのでは。個人的には、丸本莉子と竹原ピストルの両シンガーソングライターが、より注目されることも期待します! Twitterは@t2umusic